院長からのひとこと

利益と誇り

 人間の価値観を大きく分けますと、実質的利益と誇りとに分かれます。そして、悲しいかなこの二つは、反比例することが殆んどなのです。

 そして、この実質的利益を代表するものが金銭であると私は思いますが、今の日本の現状を考えると、この実質的利益が価値観の殆んどを占め、誇りがないがしろにされているように思えるのは私だけでしょうか? 実際、この人間社会を生きて行く為には、お金が必要なのは良く分かっています。ですが、お金を稼ぐために、卑怯なことや人間関係を悪化させることなどは、道徳心の在るものならば容易くは出来ないでしょう。よって、お金も儲かり感謝もされるということが一番良いのですが、なかなかそのような仕事は無いようです。よく一代で大きな会社を設立された会社社長の自伝などが、テレビや本などで紹介されていますが、随分美化しているように思えて仕方がありません。事実、それだけの利益を得たということは、実利を取りすぎているということでもあるからです。
 しかし、今の日本社会の価値観は、密接な世界貿易による影響が大きく、特にアジア近隣諸国との経済競争のためか、近年は余計でも卑怯で姑息な手を使って利益を得ようとする会社組織が増えているように思います(他の国々が卑怯な手を使うが故に、こちらもそのように染まってしまうということでもあります)。そして、その組織に属する集団は、集団の利益が大切であるという思い込みから、嫌なことでもそのときは平気でやってしまうのです。ですが、そのようなやり方で利益を得ても、本心は必ずや自身を咎めています。この心の痛みが、場所や形を変えて絶対に回帰してきますので、その報いがうつ病や自殺者の多い今の日本の現状を表しているように思えるのです。
 養老孟司さんが、著書である「真っ赤なウソ」で言われていたことの中に、「この世に個人心理などは存在しない。あるのは集団心理のみだ。これを言っているのは岸田秀さんと私だけだ。」と述べてありました。私も実際にそう思いますが、個々人をテレビなどで分析している心理学者を見ていますと、結局は分析者の色眼鏡を通して見ているだけであって、本当の個人心理は絶対に分かるはずがないとおもっています。もし仮にも個人の心理が理解出来たとしたならば、それは理解された時点でもう個人の心理ではなく、理解した者とされた者との集団心理となるからなのです。ですので、実際に感じているものは集団心理であり、この集団心理が個人の価値観に大きく影響を及ぼして、自己欺瞞・集団欺瞞を作り上げているのです。

 結局のところ、私たち個人が感じている、この漠然とした現代社会の閉塞感が、今の日本人の集団心理なのです。それが、誇りを捨ててでも実質的利益を得ることのほうが大事という、今の日本人の価値観なのです。ですので、この価値観が自分自身にとっての本当の価値なのかを、個人が主体性を持って考え、その答えを集団心理へと投影し返すことで、後の世を担う子供たちが、少しでも今より住みやすい世界に出来たらと思っています。その世界とは人それぞれでしょうが、私の思う世界とは、第一に公害の無い綺麗な環境であると思っています。そして、人の心身とそれを取り巻く環境とは、今流行の言葉をお借りして言えば「動的平衡」であるといえるのです。



                                  2012年 5月31日
                                     大野 悟